第1回インターネットガバナンスを検討する会レポート
2014-07-02
1. 会について
本会の概要は以下の通り。
1.1. 参加者
第1回「インターネットガバナンスを検討する会」(以下本会)には55名の申し込みがあり、
そのうち38名に参加いただいた。
1.2. アジェンダ
第1部 レクチャー編
- 「NTIA発表の背景について」 慶應義塾大学 村井純氏
- 「IANA機能監督権限の移管に関するおさらい」 JPNIC 前村昌紀
第2部 ディスカッション編
以下の12名(敬称略)にゲストとして参加いただいた。
うち2名(※印がついた方々)は遠隔参加。
- 会津 泉(ハイパーネットワーク社会研究所)
- 石田 慶樹(日本インターネットエクスチェンジ)
- 市川 麻里(総務省情報通信国際戦略局国際政策課)
- 江崎 浩(東京大学)※
- 木下 剛(インターネット協会)
- 後藤 滋樹(日本ネットワークインフォメーションセンター)
- 橘 俊男(Internet Society日本支部)
- 立石 聡明(日本インターネットプロバイダー協会)
- ジェイムス フォスター(慶應義塾大学)
- 堀田 博文(日本レジストリサービス)
- 村井 純(慶應義塾大学)※
- 山口 修治(総務省総合通信基盤局データ通信課)
1.3. 会合の趣旨
冒頭の挨拶で、JPNIC前村より、会合の趣旨に以下の2点が示された。
- インターネットガバナンスに関して、適切な状況認識の上で充実した検討ができる基盤を日本国内に構築する
- インターネットガバナンスに関する提言を行い、グローバルな方向性への反映と日本国内での実装を準備する
このような趣旨で継続的に活動するために、
1.4に示す名称(仮称)も併せて示された。
これらに関しては、
第二部ディスカッションにてゲストより賛同の意見を複数いただいた。
1.4. 名称
(仮称)日本インターネットガバナンス会議 Internet Governance
Conference Japanとしているが、ご意見をいただいた上で決定し、
名称および略称等を後日お知らせする。
1.5. 会のスケジュール
約2ヶ月おき(6月、8月、11月、1月、3月……)の開催を想定。
1.6. テーマ案
毎回の議論を踏まえ次回の適切なテーマを設定することとしている。
2. 第一部 レクチャー
2.1. 村井氏講演「NTIA発表の背景について」
- IANAの監督権限移管は前触れなしにいきなり出てきた話ではなく、ICANN設立時から予定されていたこと
- インターネットは今や全人類や社会のためのもの
- インターネットは我々には当然の存在だが、世の中の人はまだそう思っていない
- 固有名詞である「The Internet」をどう維持していくのかがインターネットガバナンスで、その根源はIPとDNSであり、これらが動かなくなるのはよくない
- ビジネス的にみると、今や(インターネットへの)到達性やドメイン名を売るだけの時代ではない
- あらゆる国、あらゆる経済活動主体、あらゆるステークホルダーに関わってくる話で、すべての当事者が責任を持つことが重要
- すべての言語・文化をレスペクトし、多様性を重視することが重要で、日本はこの分野で大きな貢献をしてきた
2.2. 前村講演「IANA機能監督権限の移管に関するおさらい」
IANA機能監督権限の移管について詳しくない人でも議論に参加いただけるよう、
主に以下について説明。
詳細は資料(2.28MB、p.6以降)を参照のこと。
- NTIA声明についての解説
- IANA機能のおさらい
- 米国政府とICANNをはじめとする各組織との覚書・契約書
- IANAの各機能と各組織の関連
- 現行の米国政府によるIANAへの関与
- IANA機能監督権限移管についての検討プロセス
3. 第二部 ディスカッション
レクチャー後、
休憩時間中に参加者からいただいた質問をディスカッション中で紹介し、
その中の主なものはゲストに質問を振ってコメントしていただいた。
質問が多種多様にわたったので、
その紹介と対応にかなりの時間を費やすこととなった。
発言はゲストだけに限らず、会場からも活発なコメントをいただいた。
3.1. 想定される最悪の事態(worst case)
参加者からの質問の中でもっとも代表的と思われるものとして、
「想定される最悪の事態(worst case)は何か」があった。
これに対しては、ゲストより以下の通り列挙していただいた。
- 米国議会にDNS監督権限の移管を止められること
- 必ず失敗するプロセスをICANNが提案して、米国政府がそれを飲んでしまうこと
結果として、インターネットがうまく動かなくなってしまう
- インターネットが動かなくなるような意思決定プロセスが作られること
運営の継続性および安定性が第一に考慮されるべきで、運営に責任を持った組織がマルチステークホルダーの意見を聞きながら運営する、としないと立ち行かなくなる
- 国際電気通信連合(ITU)がインターネットガバナンスに関与するようになること
2014年の全権委員会議(総会)でITUの目的、権限を規定している部分(憲章・条約)を大きく変えることでこのようになる可能性がある
なお、ITUによる関与の可能性については、
NTIAのアナウンスによれば国もしくは政府間組織による解決策に置き換える提案は受け付けないとしていることから、
心配する必要はなく、本会でのディスカッションの対象外ではないか、
との意見が参加者からあった。
3.2. 最良の状況
これに対し、
想定される最良の状況(best case)についても質問が投げかけられたが、
JPNICの前村より安定的な運用が継続され、
IANAの機能が保全されたうえでICANNの説明責任(accountability)の枠組みで運用されれば理想的だと思う、
という発言があった他には特にコメントはなかった。
3.3. 他の懸念
ゲストの方々による最悪の事態以外の懸念は、
次のような点が挙げられた。
- インターネットが一つでなくなる=国単位でインターネットへの接続が決められるような事態
- 政府がインターネットに関与し始めてインターネット上の情報の自由な流通を阻害すること
- チュニスアジェンダを書き換えること
2015年には国連総会にてWSIS成果文書の実施状況の全体総括レビューが実施されるが、そのためにG20でサミットの開催を希望している国があり、サミットの目的はチュニスアジェンダの書き換えと思われる。
3.4. マルチステークホルダー
IANA監督権限の移行のための4原則の一つであるマルチステークホルダーモデルの支持強化については、
以下のような意見があった。
- うまく行かない場合にマルチステークホルダーはやっぱり駄目となる可能性が大きい
- マルチステークホルダーは日本でも機能しているが十分ではなく、市民社会も広がっていない。マルチステークホルダーでは、意見や利害が異なる人が集まることが重要
- マルチステークホルダーは誰かという質問は難しく、答えを持ち合わせていない
3.5. 今後のスケジュール感
- 大きな節目としては、現行のIANA契約の満了日である2015年9月30日
- もっとも大きいイベントはITUの最高意思決定機関である全権委員会議(2014年10月20日~11月7日)
ITUの基本的文書について変更する権限がある
参加者からの、IANA契約が切れるまでに、
本当に決まりそうな気配はあるかどうか、そして間に合わない場合、
どれぐらい危機感が持たれているのか、という質問に対し、
技術コミュニティではIANA契約満了の9月を死守する方向ではあるものの、
移管について議論するためにICANNを中心として設立される「コーディネーショングループ」によって提出されるアウトプットの質に大きく依存する面はある、
という回答があった。
3.6. 今後の進め方、まとめ
議論の対象をIANAやICANNに限るのか、
プライバシーやサイバーセキュリティ、
知的財産権などにまで広げるのか、という質問がゲストよりあり、
これに対しては皆で考えていこうという話になった。
今回のまとめとして、
最悪の事態を回避し最良の状況に持っていくにはどうしたらよいか、
ということが議論されたものの、さらに議論が必要であると思われる。
以上