第2回日本インターネットガバナンス会議(IGCJ)レポート

2014-09-05

1. 会合の概要について

日本インターネットガバナンス会議(IGCJ)第2回会合(以下本会)は以下の通り開催された。

開催日時 2014年8月19日(火)17:45~20:45
会場 シスコシステムズ合同会社 東京本社会議室

1.1 参加状況

本会には59名の参加があり、 遠隔中継を行った結果延べ86名が視聴した。

1.2 アジェンダ(敬称略)

第1部 アップデート

第2部 ディスカッション

2. 第1部 アップデート

2.1 JPNIC前村による発表「IANA監督権限の移管に関する最新動向・ICANNのアカウンタビリティの解説」

2.1.1 IANA監督権限の移管

IANA監督権限移管調整グループ(IANA Stewardship Transition Coordination Group: ICG)のメンバーがほぼ確定した。 ICGのチャーター案については公開され、意見募集を実施した。 本講演時点ではICGの構成(議長、事務局など)が議論中である。 2015年9月のIANA業務委託契約終了に間に合うようスケジュールが組まれたが、 現実的でないという異論もあった。

2.1.2 ICANNアカウンタビリティ

IANA監督権限移管に向けた取り組み開始と同時に、 ICANN自身の説明責任向上に向け体制づくりを開始した。 検討体制案では以下の三つのグループを設立することになっている。

2.2 JPNIC奥谷による発表「IGF関連情報提供」

IGF MAGメンバーとして、IGFプログラムの選考過程、 プログラムの見どころについて説明。 従来のような議論しっぱなしではなく、 NETmundialのように成果文書にまとめることなどの踏み込んだ対応を求める声があり、 継続して開催できるよう資金の確保が課題となっている。 さらに国連総会でIGFの今後について決議されることになっている。 日本からのプログラムの応募や、 最適な事例をとりまとめるセッションであるBest Practices Forumsへの参加はあまり見受けられなかった。

質疑応答では、同じく日本からのMAGメンバーである会津泉氏より、 ステークホルダーの定義などについて補足があった。

2.3 市川麻里氏による発表「国連におけるインターネットガバナンス関連状況」(事前収録)

国連の「開発のための科学技術委員会(CSTD)」、 拡大協力(協力強化、Enhanced Cooperation)に関するワーキンググループ(WGEC)における動向、 国連総会で決議されたWSIS成果の実施に関する全体総括レビューの手順、 およびITU全権委員会議に向けた動きについて、 事前収録した動画にて報告いただいた。 WGECについては、 勧告を出せないままWG自体を終了することになったとの報告がなされた。

質疑応答は特になかったが、質問があれば、 IGCJのメーリングリストにお寄せいただければ、 JPNICから発表者にお伝えする。

3. 第2部 ディスカッション

3.1 IGCJの運営方針に関する提案と検討

JPNIC試案「IGCJの運営方針に関する提案と検討」を前村が発表し、 議論が行われた。 時間の関係上、議論の時間が短く、 IGCJのメーリングリスト等で継続的に議論することとなった。 また次回第3回会合は当初11月開催のInternet Week (IW) 2014と同時開催を考えていたが、 その前に必要に応じて、 このテーマに特化した検討会の開催をJPNICで検討することとしたい旨JPNICよりお伝えした。

会場からいただいた主な意見は以下の通り。

3.2 ネットワーク中立性 ~ Netflix vs Comcast 論争は日本で起こるのか?

3.2.1 実積氏による発表(ネット中立性を取り巻く状況と課題)

ネットワーク中立性(ネット中立性、network neutrality)の最も単純な定義は、 すべてのインターネットのトラフィックが平等に扱われるべき、 という原則である。 ネット中立性をめぐる議論は国によって異なり、 米国は競争原理に基づいた経済学的な議論、 欧州は、ユニバーサルアクセスなど人権に関わる議論が中心である。 ここではネットワークを運用する立場から、 経済的な視点に基づいた米国での議論を紹介するとともに、 日本での状況と比較した。

そもそもネット中立性が注目されたのは米国のケーブルテレビ会社であるComcast社がP2PプロトコルであるBitTorrentを止めたことに端を発している。 米国では電話会社およびケーブルテレビ会社経由でのブロードバンド接続が圧倒的に多く、 日本のようなドミナントキャリア(支配的既存大手事業者)への強い規制はないため垂直統合が進んでいる。 このような状況で、 コンテンツ事業者であるNetflix社はネットワーク事業者に対して、 ユーザーからの自社サイト利用時にユーザーが待たされるのは通信事業者かつISPである電話会社またはケーブルテレビ会社のためだとアピールしたが、 効果がなかったためか自らのコンテンツのトラフィックが混雑しないよう、 ネットワーク事業者と契約を結び対価を払うことになった。

インターネットを流れるデータ量は爆発的に増えているが、 固定網の場合は日本・米国とも投資が間に合っている。 とはいえ、日米とも帯域制限を実施している。 日本は特定のプロトコルもしくはヘビーユーザーを特定し制限を行っている。 最近はファイル共有よりも動画視聴が伸びており、 固定網において4割以上の帯域が使われている。 ファイル共有と比べて、 ストリーミング形式のためピーク時の利用をずらすことができず、 ピーク時に対応して帯域を増強する必要があるという傾向が強くなってきている。

前述のネットワークにおける混雑に対して、 プロバイダーの目からみてどう対処するのかがネット中立性の議論の中核であり、 ネットワークの資源を増やす場合、 誰に対して課金するのかということが課題となる。

3.2.2 クロサカ氏のモデレーションによる議論と整理

Q. 米国の通信事業者より、 ドミナントキャリアに対しIP網の相互接続義務付けを導入する意見について、 日米で状況が違うと考える理由は?(クロサカ氏)

A. 日本ではドミナントキャリア規制があるため、 上位層ではドミナントキャリアのシェアは米国ほど大きくないこと、 米国では垂直統合が進んでおり独立系のISPの生き残りが難しく、 かつ利用者の選択肢が少ないためではないか。(実積氏)

Q. モバイルの世界では通信事業者と上位層プロバイダーがほぼ一体化しており米国のような状況が生じる可能性があるか。(クロサカ氏)

A. 米国で規制があまり厳しくないのは、 市場の変化が大きいため当局としては様子見となったのではないか。 日本では寡占状況にあるのは間違いないが、 MVNOが出てきたことで競争が生じたと考えられれば、 必ずしも米国のような状況となるとは限らないかもしれない。(実積氏)

Q. 今後日本は否応なしにモバイルにシフトすると思うが、 その際競争環境が維持できるか。(クロサカ氏)

A. MVNOが出てきても当分は垂直統合を維持するだろう。 日本の規制は事業者を区別せずある意味先を読んだものであるため競争環境は維持できるのではないか。(実積氏)

C. NETmundialにおいてネット中立性の議論があったが、 ほとんどすべて文書から落とされた。 途上国側は通信事業者だけではなく、 コンテンツ事業者も地元の産業を支えているため文書にネット中立性について含めるべきとしているのに対し、 米国を中心とした企業連合は入れるべきではないという主張で平行線となった。 さまざまなインターネットガバナンスの課題の中で、 ネット中立性が最も議論が尽くされていない課題だという気がする。(参加者)

C. それはISPが十分な情報開示(相互接続状況、 利用者の消費している帯域など)をしていないため、 消費者が十分対処できないためではないかと感じている。(実積氏)

Q. 究極的に消費者の利益を最大化しようと思うと、 消費者の求めているものを具体化できるのか。(クロサカ氏)

A. それは定義できないだろう。 危険なのは人権問題だと国連が言い始めてユニバーサルサービスがインターネットに持ち込まれること。 インターネットは今までは使える人が使う、 そして技術が発展しそれを皆が使えるようになる、 といった具合にエコシステムが発展してきており、 全員が最低限使えるものは何かを議論したことがない。 国連のような人権を主張し地球全体のためにユニバーサルサービスに準備するべきという話と、 経済の面からエコシステムを発展させていこうという人とは主張がかみ合わないだろう。(参加者)

C. 我々にとって日本の消費者にとって何が必要なのか、 何を受け取っていてそれは適正なのか、 各人が考えていかなければならず、 その観点からできていないことをあぶり出さなければならない。(クロサカ氏)

以上